あの頃は

 僕はQと杉本とえなりと、四人で中二の頃に、自転車で東京までいった。その頃には何気ない、でも胸の騒ぐ出来事であった。
 その直後にアメリカへ留学し、その自転車旅行という出来事は色が褪せてしまったように思えた。実際には自転車で一週間かけて東京まで行った、それだけのことだったからだ。そこに何の事件があったわけでもなく、僕らはそれによって大きく成長したというわけでもなかった。でも僕ら四人はその旅行の準備をともに行い、クラブで忙しい時期に随分と長い間一緒にいた。旅行にいった三人は、少なくとも僕にとっては、同学年でもっとも仲良くなれた友達だった。でもその頃の僕は、人間関係といったものにはとんと無関心であったし、それが何か自分自身にとって大きな意味を持つものとはちっとも考えていなかったから、そんなことを考えもしなかった。留学から帰ってくるまで僕はそんな感じだった。
 その後、Qが留学に出かけた。その頃の僕とQの関係がどんなであったかは覚えていない。自転車旅行の前では、僕は杉本やえなりよりもQとのほうが仲がよかったようにも思える。やはりこの時期にも僕はそういったことを考えていなかったのできっとどうでもよかったのだと思う。それ以後、彼は大きく変わったと思う。
 その後、高ニ、高三という時期を経るにつれ、僕は杉本やえなりと再び仲良くなっていったようだ。やはり僕は彼らと時間を過ごすのを心地よく感じていたのだ。そう考えると、僕にとって自転車旅行というのは、何か、欠かせないものであったのだ、と気付かされる でもその自転車旅行が何であったか、といわれると、僕にはよくわからない。
 Qがあれからどんな風に変わったか、ということは分からない。
 数日前のQの日記を読み、ああ、Qとってもその思い出は「何か」であったのだろうと、とても嬉しくなった。僕がいいたいのはそれだけだ。